2015年9月12日土曜日

ニューワンマン(2015-09-11)

突然すぎて最初は何が起きたのか分からなかった。想像を超える唐突さと激しさでゲリラ豪雨が襲来した。渋谷ハチ公前。18時15分過ぎ。幸いにもすぐ近くに東急百貨店の入り口があったのでそちらに避難した。友人Aが合流したときには10分もたっていなかったが、だいぶ小降りになっていた。彼が傘を持っていたので入れてもらった。会場に向かった。途中にあった「ラーメン王」という店に入った。飯を食うだけではなくコンサート前に一杯引っかけておきたかった。Aも同意見だった。私は肉味噌炒め定食670円。友人Aはレバニラ炒め定食670円。二人で500mlの瓶ビール500円を分けたが、足りなくてもう一本頼んだ。豪快な味付けで元気が出る飯だった。Aはレバニラに途中から七味唐辛子をかけて食うという悪趣味さを発揮していたが私が彼を火鍋に連れて行って以来彼はこういう病気になったのだ。辛い料理にはまると辛くない料理では満足できなくなるのだ。

店を出ると雨はほぼ止んでいた。500mlのビールが私を楽しい気分にさせていた。公演を観るのがどんどん楽しみになってきた。19時頃に渋谷O-NESTに着いた。友人Bと合流した。今日は開場19時、開演20時なのでもう入ることが可能だ。私が買った3枚のチケットに印字されている整理番号は4番から6番だ。仮にハロプロのコンサートでこんな整理番号を引き当てたら問答無用で一番前に行ってがっつくが、今日のコンサートはちょっと違う。DOTAMAというヒップホップMCのソロ公演だ。DOTAMAがソロのコンサートをやること自体が初めてだ。どういうノリで臨めばよいのかがつかめない。いきなり最前線に突っ込むのではなく少し引いた位置から様子を見たかった。だからあえて19時半まで待った。Aは会場横のコンビニでビールを一缶買った。3人で立ち話をしながら彼はそれを飲み干した。

DOTAMAのことはMCバトルで知った。CDはすべて買った。彼のアルバムはどれも個性的で、単なる曲の寄せ集めではなく一枚毎にコンセプトが練られている。特にハハノシキュウとQuviokalとの合作アルバム『13月』は他に類を見ない独創的なラップ・アルバムである。『ニューアルバム』という新しいアルバムの発売(8月12日)とそれを記念しての『ニューワンマン』というソロ公演の開催(9月11日)が、6月22日に発表された。その日のうちにアルバムを予約して友人AとBをコンサートに誘った。彼らは快諾してくれた。このコンサートに確実に参加するために友人Bは有休を取った。私は仕事の関係者に今日は17時に会社を出なくてはいけない旨を事前に伝えた上でその通りに実行した。

19時半過ぎに会場入りしたら拍子抜けするほどガラガラだった。最前に10人ほど張り付いているくらいで、後はポツポツ。DOTAMAはUMB2014でR-指定と当たったときにお前のライブは会場がガラガラだったというようなことを言って攻撃していたのだが、このままでは次にバトルでR-指定と当たったときにまったく同じことを言い返されてしまうのではないかと心配になった。会場は凄く快適で、円卓っていうのかな、ドイツのソーセージ屋台で立ち食いするときのあのテーブルみたいなのが二つ設置されていた。その片方に私たちは陣取った。ドリンクチケットと引き替えたジンライムで、私はいい感じに仕上がっていた。

15分遅れの20時15分にDOTAMAが登場した。サラリーマン出身であることをアイデンティティにしているDOTAMAなので時間はきっちり守るのではないかと私は予想していたが、フレックス出勤したと考えれば15分の遅れの説明はつく。開演した頃には客入りはだいぶマシになっていた。少なくともバトルでR-指定にお前のライブこそガラガラだったやんけと意趣返しされないくらいには埋まっていてホッとした。最後には電車の乗車率で言うと100%近くにはなっていた。身体がぶつかるまでは行かないストレスのない程よい混み方だった。たぶんヒップホップのヘッズには開演時間までにきっちり入場しておくという習慣がないのだろう。DOTAMAも「オープニングからのご来場」をTwitterで呼びかけていた。そのために先着100名にステッカーを配っていた。私も一枚もらってカバンに入れたが、なくした。見つけたら来年のタワレコ手帳に貼りたい。客は私たちやDOTAMAと同年代くらいの会社員(見るからに仕事帰りというスーツ姿の男性も何人かいた)や若い男女などさまざまだった。ガラの悪さがなくて、安全な客層だった。以前K DUB SHINEのコンサートを観に行ったときにはダボダボの服を着た坊主頭が客の大半で威圧感があった。見間違いでなければ私たちのすぐ近くにカクニケンスケがいた。

DOTAMAはだいぶ緊張しているように見えた。表情がこわばっているように見えた。彼がどれだけ気合いを入れて今日に臨んでいるかはTwitterの投稿で十分すぎるほど分かっていたが、それにしてもおちゃらけた感じがなかった。ただ、歌声は安定していて音源と変わらなかった。『ニューアルバム』のジャケット写真の衣装だった。『HEAD』から始まって『名曲の作り方』など、前半は『ニューアルバム』の曲が多かった。曲を1コーラスだけ歌って次の曲につないでいく形が多かった。中だるみせずsmoothな展開だったが、欲を言えば『音楽ワルキューレ』はfull chorusで聴きたかった。イントロだけで終わっちゃったんですよ。めちゃくちゃ盛り上がったので、そこでぶった斬って『音楽ワルキューレ2』に移ってしまったのは惜しかった。

「セイホー」「ホー」というヒップホップの定型のやり取りは二回だけあったが、それ以外にDOTAMAが客に同じことを叫ばせたり同じ動きをさせたりして一体感を演出することはなかった。各々が自由に酔いしれて音楽に乗っていた。それが凄く心地よかった。みんながDOTAMAの音楽を大好きで、この瞬間を楽しんでいるんだという空気が充満していた。平和で楽しく気持ちのよい音楽空間だった。The Telephonesのドラム担当者とベース担当者が助っ人として参加して3曲くらいやった後、説明がないまま出演者が引っ込んで、しばらく間があった。まだ時間がそれほどたっていなかったし、登場が予告されていたハハノシキュウもまだ出ていなかった。まだ終わりではないとみんな分かっていたと思うが、アンコールが起こった。客に軽妙なノリのよさがあって雰囲気がよかった。偽アンコールの後に出てきたハハノシキュウとDOTAMAのフリースタイルによる掛け合いが自由で面白かった。ハハノシキュウと同じステージに立つとDOTAMAがまともな常識人に見える。ハハノシキュウ最高。Tシャツ、パーカー、キャップと「8x8=49」の完全コーディネートだった。

DOTAMAのトークでは『ニューワンマン』という公演名を付けた理由の説明が一番印象に残った。曰くこの公演名は「常に新しいものに挑戦するのがヒップホップ。新しいフロー、新しいラップのやり方、新しいテーマ、新しいトラック…」というヒップホップ観に基づいているのだという。これはDOTAMAというヒップホップ・アーティストを理解する上で重要な発言だと思う。本人の口から聞くことが出来てよかった。私は正直『ニューアルバム』というアルバム名も『ニューワンマン』という公演名も好きではなかった。『無題』のような誰もが思いつく面白くない奇のてらい方だと思っていたからだ。しかしこれらの題名が上述したDOTAMAのヒップホップ観から来ているのだと知って非常に腑に落ちた。この公演を通して彼が一曲一曲に意味と思いを込めて真摯に音楽を作っているのを再認識した。どこまでも生真面目なMC。DOTAMAの話を聞きながら、私のヒップホップ観は何だろうと考えた。

22時3分に終演。これだけ楽しませてくれたコンサートのチケット代がわずか2,000円(終演と2,000円のえんで踏んでいる)。数十万円の売上にしかならないのが不憫である。利益となるとほぼゼロなのではないかと想像する。次回の公演では是非DOTAMAの顔がでかでかと印字された「DOTAMAのドタマTシャツ」を売り出してmake moneyしてほしいものである。OBAMAとDOTAMAで韻を踏めるのを利用して、OBAMAの顔のTシャツを引用したデザインに出来ないですかね。