2015年12月6日日曜日

MISSION 220 (2015-11-30)

YouTubeに『MADE IN KAWASAKI 工業地帯が生んだヒップホップクルー BAD HOP』という動画がある。その内容についてここで語ることは出来ない。なぜなら私はその動画を見ていないからだ。雰囲気から察するに、どうやら川崎の不良少年たちが徒党を組んでヒップホップのクルーを作る話のようだ。BAD HOPという造語をクルー名にしていることから、ワルさを売りにしているのが見て取れる。川崎という土地に対しては何となくそういう刷り込みがあった。それ以外で川崎について私が知っていることと言えばヴェルディ川崎とフロンターレ川崎の本拠地であるということくらいである(ヴェルディは後から東京全体をホームタウンと標榜するようになったが)。したがって、私にとっての川崎とはワルさを押し出した少年たちによるヒップホップクルーとJリーグのチームが二つある街なのである。一般的に、関わりのない土地に対する印象というのはそんなものである。名古屋と言えばエビフリャーとコーヒーを頼んだだけでおまけが大量に付いてくる喫茶店であり、大阪と言えばかに道楽と漫才であり、インドと言えばカレーである。普通の外国人から見れば日本はスシ、ゲイシャ、サムライ、カミカゼなのである。

川崎に来るのは初めてかと思ったが、違った。川崎市に住む友人がいて、彼の家に遊びに行ったことがあるし、等々力陸上競技場にヴェルディの試合を観に行ったこともあった。ただ、昔のことだ。少なくとも川崎駅で降りるのは初めてだった。クラブチッタ川崎に着いたところグッズ列はそれほど長くなかった(20人くらいだったか)。私の番だと思って売り場の淑女と目を合わせて軽く会釈をして一歩踏み出したとこら、いがぐり頭のガラの悪いオタクが「次オレじゃねえの?」と割り込んできた。咄嗟に「あ、すみません」と譲って穏便に済ませた。これが一瞬で出来たのは我ながら成長したなと思った。大学を卒業してから10年間を経て、どうでもいいことで争うということをしなくなった。仕事の経験が大きいと思う。彼は宮本佳林さんのTシャツ3,000円と写真500円を買っていた。5,000円札で支払って1,500円のお釣りを受け取っていた。どうして天使のような宮本佳林さんを好きでいながらあのような感じの悪い人間になれるのかが不可解だったし、彼に推される宮本さんが可愛そうだった。オタクでありながらガラが悪いというのはモノホンの底辺だ。彼に対する怨嗟の言葉が頭を駆けめぐり、気分が悪くなった。この気分を引きずるのか、忘れて楽しむのか。自分の度量を試されていると思った。川崎駅に戻って、コインロッカーの前でtilakのダウンヴェストとBattenwearのスウェットシャツを脱ぎ、コム・デ・ギャルソンのTシャツの上から宮崎さんの研修生風Tシャツを着た。スウェットシャツを着直した。ジーンズのポケットにチケットと2,000円を入れた。宮崎さんと宮本さんの日替わり写真(各500円)とコレクション生写真2枚(各500円)をカバンに収めて、ロッカーに入れた。暖かいのでダウンヴェストも預けた。400円。セブンイレブンで「深み味わうヱビス」を買って、店の前で飲んだ。最後の方を口の中に流し込みながら周りを眺めると、上下紺のスウェットシャツにスウェットパンツを着てヒゲや髪の毛をあまり整えていない紳士が通りがかって他人の自転車のカゴにゴミを入れていた。治安があまりよろしくなさそうな空気を肌で感じた。平日の16時半頃にカバンも持たずにコンビニ前でビールを飲んでいる私も大概だが。空腹のおかげでアルコールが効くのが早かった。ややノリのいいシラフくらいに仕上がった。これくらいがちょうどいい。

開場17時15分、開演18時。17時前に会場前に行くと、係員が1~200、201~400、401以降という三つの塊に分けて来場者を立たせていた。となると今日の客は500~600人くらいか。私のチケットに印字された整理番号は55番だった。クラブチッタ川崎は初めて来るが、ネットで画像を見るかぎりステージが高い位置にあって見やすそうだし、ライブハウス(和製英語)としては収容人数が多い方なので(ネットには1,300人と書いてあった)、55番というのは相当にいい番号のはずだから楽しみだった。入ってみると、大体2列分くらいまで人が入っていて、空いているのは3列目くらいからだった。一箇所だけ2列目に入り込めそうだったが一瞬迷った隙にむすっとした顔の恰幅のいい紳士が走ってきて、その空間を埋めてきた。彼のすぐ左後ろに立つことにした。2列目は逃したが、それでも最高の位置だ。2002年サッカーW杯アイルランド代表のダミアン・ダフのような右側前方のポジション。右前の紳士がTwitterをいじっているのが見えた。宮本佳林さんの画像をアイコンにして「がんばりんです」等と誰かに送っていた。入場時に渡されたビニール袋や自分のカバンを床に置く人が近くに何人もいた。混雑した電車でボストンバッグを足下に置く高校生から進歩していない。

開演前の場内announcement(いわゆる影アナ)は宮本さんが担当した。注意事項を読み上げる度に客席の皆さんがはーいと声を揃えて返事をするのが通例なのだが、今日は宮本さんが自分で読んだ注意事項の後に自分ではーいと言っているのがやたらと可愛らしく、彼女の上機嫌さがこちらにまで感染してくるようだった。Opening actでJuice=Juiceさん扮するNEXT YOUさんが登場し“NEXT IS YOU”を歌った。NEXT YOUさんのお決まりとして「NEXT YOUのライブは?」「授業参観!」「NEXT YOUのファンのみんなは?」「ネクス中毒!」「みんなで目指すぞ」「武道館!」(細かい言葉は間違っているので雰囲気だけをつかんでほしい)のようなやり取りをNEXT YOUさんと客が行うのだが、こう言ったらこう返すんですよという根回し一切なしにいきなりこのくだりを始めて、しかも客の大半が対応できていた。私はうろ覚えだったので半分くらいしか咄嗟に反応できなかった。

NEXT YOUさんとして出てきた最初の挨拶で、植村あかりさんの声がかすれているようだった。前方で細かい表情が見えたからこそ気付けたのだが、踊っているときの表情を見ても生気が欠けており、どうも元気がなさそうだった。Juice=Juiceさんとして出てきた本編でも同様で、無表情でいることが多く、目の焦点が合っていない感じがして、このまま意識を失ってしまうのではないかとヒヤヒヤした。いつもの植村さんではなかった。サッカー雑誌の寸評風に言えば、精細を欠いた。他のメンバーさんは四人とも元気ハツラツで、植村さんと交互に見ると落差が明確だった。約1年半で220公演を達成するというのはおそらく理詰めというよりは体育会系のノリで決められたコンセプトだろうし、これだけの公演を短期間でこなしていけば常に100%の品質を保つのは無理な話だ。既に欠員が出たこともあったし、公演によっては体調や気分にムラが出るのは当然だ。

間近で見て改めて、金澤朋子さんがやたらと美人だった。いつも美人のはずなのだが今日は特にそう思った。自信に溢れた表情で歌って踊るお姿は、優美という言葉がよく似合う。宮崎由加さんは人並み外れてきれいで、彼女と私が同じ世界に住んでいるというのが理解しづらかった。日本人や人間といった何かしらの属性を私と同じくする存在というよりは、お人形さんだった。宮本佳林さんはいつ見ても至上の元気さと可愛さと一生懸命さを我々に見せてくれる100点、100%のアイドルである。この方には不調という状態が存在するのだろうか?

宮本佳林さんが明日で17歳になる。おそらく開演前のannouncementを割り振られたのは今日で16歳最後ということでfeatureされたのだろう。一人喋りのセグメントも宮本さんが担当した。宮本さんがおっしゃっていたことの一部:
・明日のバースデーイベントの1回目は当日券もあるので来て欲しい。1回目でしかやらない、激しい何かがある。何かは言わない。セットリストも絶対に言わない。でも皆さんに喜んでいただけるセットリストになっていると思う
・(今日の客には)久しぶりに見る人がたくさん。1年ぶりくらいの人が多い。どこに行っていた? こぶしファクトリー? つばきファクトリー? カントリーガールズ?
当たり前のように「1年ぶりくらいの人が多い」とおっしゃっていたが、友人や同僚でもあるまいしそんなに深く接している訳ではないのに覚えているとは、どういう記憶力をしているんだ…。

その後、宮本さんが着替えていて他のメンバーが喋るセグメントで金澤さんが、佳林ちゃんの誕生日になにをあげたらいいか、と客に投げかけた。「私よりも佳林ちゃんのことを知っているだろうから。小学生の頃から知っている人もいるんでしょ?」。タケちゃん(宮本佳林さんが敬愛していることで知られる、アンジュルムさんの竹内朱莉さん)という声が客から挙がった。タケちゃん? どうすればいいの? と笑っていた金澤。「ああ、グッズを買えばいいのか。生写真とか? ハロショに行けばいいのか」とグッズの購入を検討するが、「生写真だと300円くらいでしょ。安すぎる」ということで、高いグッズにはどういうものがあるのか? と金澤さんが問いかける。するとメンバーさんの誰かがタペストリーがいいと言った。「私たちのタペストリーを家に貼っている人?」とメンバーさんが入場者に聞くとほとんど手は挙がらず、「意外と少ない…」と笑っていた。高木さんが「Juice=Juice以外のを貼っている人!」と問うと後方の誰かが手を挙げ「いるんかい! 素直か」と高木さんが突っ込んだ。着替えを終えた宮本が「それ欲しい!欲しい!」と竹内さんのタペストリーの話に乗っかってはしゃぎながら合流した。高木さんが「佳林ちゃん、タペストリーは壁に貼るだけだよ」と下ネタを匂わせる?発言をしたがパスの出し手と受け手の意図が噛み合わず一瞬だけ変な空気になった。宮本さんが「タペストリーって家を出るときに行ってきますって言うためにあるんじゃないの?」と言ってすぐに空気を元に戻した。

宮本さんの誕生日を祝うセグメントがあった。17 HAPPY BIRTHDAY KARINの文字と苺?でdecorateされたケーキならぬ厚焼き玉子が袖から運ばれてきて、大好きな厚焼き玉子だ!と宮本さんは感激していた。その前の曲の終盤、何の曲かは忘れたが「愛してる」という歌詞が何度か続く箇所があって、そこをメンバーさんが代わる代わる宮本さんに近寄って抱きついて歌うというのをやっていて、宮本さんが泣いていた。そのタイミングで誕生日厚焼き玉子が登場したので二重のサプライズになって祝福の演出として成功していた。会場全体でハッピーバースデーの歌を歌った。私が平日に川崎のイベントに参加するには仕事の午後半休を取る等の特別な対応が必要であり、現に今日も有給を取っている。月末月初に二日連続でそれをやるのは厳しいので明日の宮本さんのイベントは申し込まなかった。今日のコンサートでこうやって祝福に参加できてよかった。

めちゃくちゃいい位置だったし、全体的に会場が盛り上がっていてメンバーさんも「皆さんの熱気が凄い」と言及していい雰囲気だったし、事前にお酒をちょっと入れたことでいつも以上に音楽に乗れたし、宮本佳林さんへの祝賀もあったし、グッズ列で遭遇したいがぐりオタクのことを忘れて存分に楽しむことが出来た。

アンコールは「佳林! 佳林!」だった。昨日の福田花音さんのfinal講演で「かにょん!」と叫んでいるときにも思ったが、最後が「ん」の3文字のコールは若干やりづらい。最後の「ん」を一音として言わないといけないからだ。4文字だと言いやすくなる。例えば仮に小林よしのりさんがJuice=Juiceさんの一員で今日が彼の誕生日だとして「よ・し・りん」だと「ん」が「り」とつながって言いやすくなるのだ。

最後の挨拶で宮崎さんは「今ドラマの撮影をしているんですけど、やっぱりライブが楽しいんです。皆さんの反応を直に見られるので。どんどん笑顔になっていく人や、どんどん汗だくになっていく人がいる」とコンサートへの愛を語っていた。高木さんは「今日はもっとガラガラになるかと思っていた」と笑いを誘い「だから出てきたときお客さんがたくさんいて嬉しかった」とおっしゃった。植村さんは「かりんちゃんみたいにパキパキに踊りたいですけど(宮本さんはいやいやという感じで恐縮した表情と謙遜のリアクションを見せていた)、すぐには難しいのでまずはりんかを見習って筋トレに励みたい」とおっしゃっていた。

高速握手会は、植村さん、宮崎さん、高木さん、金澤さん、宮本さんの順番だった。植村さんの感情がない反応に私の心がクラブチッタで砕け散った(クラブチッタと砕け散ったで韻を踏んでいる)まではいかないがやや削られた。他のメンバーさんはいつもの元気と愛想を振りまいてくれた。宮崎さんが見せてくれたこれ以上ないくらいの笑顔が私の頭にこびりついて離れない。高木さんが私がかけていたアラン・ミクリのメガネをいじってくれた。それを見て次の金澤さんも「あら」と私のメガネに注目してくれた。最後の宮本さんも何かを話しかけてくれたが聞き取れなかった。19:48に終演し、会場を出たのが20:38だった。仕方ないけどこの規模の会場だと握手会の待ち時間がだいぶ長くなる。

家に着いてから、コレクション生写真を開封した。1枚目は宮本佳林さんだった。いいね、と呟いてアルバムに収めた。2枚目を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた植村あかりさんがいた。最高のオチだった。