2017年6月24日土曜日

Thank you team ℃-ute (2017-06-12)

toconomaの“NEWTOWN”を聴きながらさいたまスーパーアリーナに向かった。私にとっては初めての会場だったが、北与野駅を降りると前方にいかにも「それっぽい」三人組の中年紳士たちがいて、彼らについて行けば会場にたどり着けると直感的に分かった。実際には迷う余地などなかった。駅のすぐ近くだったし、そこら中にオタクさんがうじゃうじゃいた。服装を全身赤とか全身ピンクとかで固めている人たちがちらほらいた。中には髪の色まで推しのメンバー・カラーにしている人たちまでいた。「教訓一はずばりファック世間の目」(宇多丸)と言わんばかりに奇抜な格好をした人たちが楽しげにしているこの感じ、コム・デ・ギャルソンの立ち上がりのようだ。露店の割高な飲食物を買って経済を廻すオタクたち。お祭りのようだった。「チケットゆずってください」という紙を持って立っている紳士を見たが、こうなる前にもう少し手を打てなかったのか? そりゃ普通の公演だったらさ、誰もチケットを売ってくれなかったら残念でしたで諦められるだろうけど、今日はさすがにそうはいかないでしょう。オークション・サイトをあたってみるとか、原宿の娯楽道にないか探してみるとか、この日までに出来ることは色々とあったはず。あんな一か八かの手段に出なくてもチケットを手に入れる術はあったと思うんだけどな。(前に一度「チケット譲ってくださいおじさんは何で娯楽道で買わないの」とTwitterに投稿したところ娯楽道の公式アカウントから「うちの知名度が低いのです」というお返事をいただいたことがある。)

16時7分、入場列に並ぶ。16時44分、入場。思っていたよりも早く中に入れた。今日は開演が18時。当初の予定では17時だった開場時間を「最大で30分程早める予定」であることが当日になって通知された。17時20分頃に始まるオープニング・アクトは見逃したくなかった。もちろん今日の主目的は℃-uteの最終公演を見届けることだが、Juice=Juiceとつばきファクトリーが前座とはいえ初めてさいたまスーパーアリーナのステージでパフォームする姿を目に焼き付けるのも重要だった。オープニング・アクトはつばきファクトリー→こぶしファクトリー→カントリー・ガールズ→Juice=Juice→アンジュルム→モーニング娘。という順番で一曲ずつだった。この順番が、事務所にとっての序列なんだろう。実のところ、オープニング・アクトは全体的に迫力に欠け、間の抜けた印象を受けた。本編のように照明の演出があるわけじゃないし、音もそんなに大きくはなかった。あとは客席には℃-ute以外にはそこまで興味がなさそうな人も結構いた。出てきたときの歓声ではカントリー・ガールズが一番大きかったが、これはつい三日前に同グループの活動縮小とメンバー移籍に関する発表がなされたばかりだったので彼女たちを激励する観客の集合意志が込められていたんだと思う。純粋にステージでのパフォーマンスでいうとJuice=Juiceとモーニング娘。はしっかり我々をロックしていた。各グループを連続して観ると、Juice=Juiceは歌唱表現力が頭一つ抜けている。モーニング娘。に関しては『愛の軍団』のイントロが流れた時点で会場全体がパッと華やいだ。この選曲ですべてを持って行った感がある。Juice=Juiceの『Goal~明日はあっちだよ~』もつばきファクトリーの『初恋サンライズ』も℃-uteのファイナル・コンサート前に会場をしっかり温めるんだという意志が感じられた。対照的にアンジュルムとこぶしファクトリーは、自分たちが歌いたい曲を選んだように見えた。アンジュルムの新曲『愛さえあればなんにもいらない』は『君さえ居れば何も要らない』(モーニング娘。)の焼き直し劣化版。何回も聴けば変わっていくかもしれないがそれが現時点での私の印象だ。

私の席はアリーナE5ブロック。アリーナでは一番メイン・ステージから遠いブロックの、最後列だった。3-4列前にももちの旦那さんでお馴染みの某紳士がいて記念撮影に応じていた。どうやら我々の後ろの上の階にハロプロ・メンバーがいるらしく、周りの人たちが何人も双眼鏡で覗いていた。私も双眼鏡を構えて皆さんが見ている方角を向いてみたところ、小野瑞歩さんを見つけた。小野さんを中心に、私から見て左に小野田紗栞さん、右に岸本ゆめのさんが座っていた。

双眼鏡といえば、2万人を収容するというさいたまスーパーアリーナにおける席とステージとの距離は、私がかつて体験したことのないものだった。双眼鏡は必須だった。それどころか私の愛機では倍率が不十分だった。何もなしで観るとメイン・ステージにいる一人一人の顔が識別できない。シルエットや髪型や動きで判別する感じ。6倍のレンズを通して観ると各人の顔が認識できるようになる。でも細部までは見えない。インターネット上に“I wanna”から題名が始まる無料ゲーム(通称アイワナ)がある(色んなバージョンがあって作者もたくさんいる)。理不尽なまでに難易度が高いので他人が苦しみながらプレイする動画を観るのが楽しい。私は実況動画を一時期よく観ていたけど、それを思い出した。主人公が米粒のようにちっちゃいの。これはきついなあと。私は普段のコンサートだとあんまりスクリーンは観ない。ステージのどこに注目するかは自分で決めたいからだ。撮影者と画面を切り替える担当者の感性に引っ張られたくないんだ。しかし今日に関しては双眼鏡で得られる映像では物足りない距離だったのでどうしてもスクリーンを観る時間が長くなった。昨日、私は歌って踊るつばきファクトリーを数メートルの距離から鑑賞していた。その翌日にさいたまスーパーアリーナ。差が大きすぎて、なおさら遠く感じられた。

箱がでかすぎて、私はコンサートが始まってしばらくは乗り切れなかったというのが正直なところだ。私はそれなりに気合いは入れてきたし、体調もよかった。ちゃんと声を出した。岡井千聖が20歳になったときに販売されたTシャツを着て、「℃-ute推し お前推し」と印字された緑のタオルを首にかけた。そうやって形から入っても、気持ちが完全にはついてこなかった。メイン・ステージからサブ・ステージに人力のトロッコで℃-uteが移動する場面が何度かあったけど、そのときには各メンバーが近くまで来て笑顔を振りまいて手を振ってくれた。その距離で観ると本当に全員が美しく、目の覚めるような思いだった。あれがなかったら『しょっぱいね』だった。6月10日に『ファラオの墓』で牧野真莉愛さんが5メートルくらい先に来たときにも思ったけど、近いと伝わってくるものが違う。わずか数秒であったとしても、近さを味わえるかどうかでそのコンサートなり舞台なりが自分にとってまったく異なってくるんだ。

いや、でも箱の大きさは副次的な理由かもしれない。仮にもっとステージに近い席だったら何倍も熱くなって、Juice=Juiceの武道館公演のときのように入り込めたかというと、そんなことはなかったと思う。℃-ute最後のコンサートを、私は割と淡白な気持ちで観ていた。実を言うと、悲しいという気持ちも、残念だという気持ちも、ほとんど湧いてこなかった。もっと観ておけばよかったという後悔もない。なぜなら観たいときにこれでもかというくらいに観てきたからだ。コンサートが進んでいくにつれ、ああ℃-uteの終わりが刻々と近づいているんだな、いいコンサートになってよかったな、このまま無事に成功して終わるといいな、という達観したようなよく分からない思いを抱いていた。去年の8月20日に中野サンプラザで解散を発表した時点で、私の中で℃-uteは終わっていた。前にも書いたが、発表してから実際に解散するまでが長すぎたと思う。約10ヶ月という期間は、彼女たちの解散を私の脳内で既成事実とするのに十分すぎた。彼女たちは正月のハロコンにも出なくて、ハロー!プロジェクトからはフェイド・アウトしつつあった。もしこの期に及んで℃-uteの解散を受け入れられず立ち直れない人がいたとしたらそれはちょっとまずい。依存のしすぎでしょう。

さいたまスーパーアリーナという大会場でも℃-uteはコンサートの終盤になるとすっかり平常運転のように場を飲み込んでいた。その頃になると私も会場が大きすぎるとは感じなくなっていた。これくらいの会場を定期的に当たり前に埋めるグループに℃-uteはなれたはず。実力と人気は既にその域に達しているはず。本人たちがそれを望まなかったということなのだろうが。私が最も引き込まれたのが『涙の色』だった。これまでは特段に好きな曲というわけではなかったが、今日聴いた『涙の色』には圧倒された。最近もJuice=Juiceのコンサートで『愛のダイビング』が急に大好きになるということがあった。たまにこういうことがある。℃-uteの曲でも最後にしてそういう発見があった。

ステージに現れた道重さゆみが℃-uteを評して放った「アイドルを超えた、とてつもない凄い者たち」という言葉が、℃-uteの到達点を表すこれ以上ない賛辞であると私は思った。道重さゆみの価値観では「完璧なアイドル」というのが最上級の褒め言葉のはずである。その道重さんをして「アイドルを超えた」存在と言わしめた℃-ute。その辺のアイドル雑誌の記者が書くと陳腐だが、道重さゆみが言うとずっしり来る。「言葉のウェイトに差がありすぎる」(呂布カルマ)。

私の真後ろが車椅子の人たちの席だった。その中に岡井千聖ファンの女性がいた(厳密に言うと彼女は車椅子には乗ってはいなかった)。℃-uteがトロッコで移動しながらメンバー・カラーのボールを客席に投げるときがあった(おそらくサインでも書いてあったのだろう)。岡井千聖は近くに来たとき、その女性をめがけて、目で合図をしてから取りやすいように下からふんわりとボールを投げていた。ボールを受け取った女性は、泣き崩れていた。何曲か経過した後に振り返ってみてもまだ泣いていた。このコンサートにおけるどの曲よりも、メンバーによるどの発言よりも、私はその光景が印象に残った。私が℃-uteに興味を持ったきっかけは岡井千聖の「踊ってみた」YouTube動画である。しばらくの間、岡井千聖は私の中で一推しに近い位置を占めてきた。今では岡井さんの位置は一推しからはだいぶ離れてしまっているけど、私が推してきたのがこんなに優しい心を持った子でよかったと思った。